年度初めに「今年度の目標を書いて」と伝えても、スタッフが何も書けずに止まってしまう。
あるいは、無難な内容だけを書いて終わってしまう。
介護リーダーとして面談をしていると、そんな場面に悩むことはありませんか?
実は、スタッフが目標を書けないのは、やる気や能力の問題ではありません。
関わり方を変えるだけで、本人の言葉で目標が出てくるようになります。
なぜなら、目標は一人で考えるものではなく、理念を軸にした対話の中で見えてくるものだからです。
私はこれまで現場で面談を重ねる中で、目標を言語化できないスタッフや、自分なりの考えはあるものの方向がズレているスタッフ、そして介護に迷いを感じているスタッフと向き合ってきました。
その中で、問いかけと関わり方次第で、目標への納得感やその後の行動が大きく変わることを実感しています。
この記事では、スタッフが目標を書けない理由と、その引き出し方をタイプ別に整理しながら、会社の理念とつながる目標設定の進め方を具体的に解説します。
この記事を読むことで、形だけの目標ではなく、スタッフが納得して動き出す目標をつくれるようになります。
結論、目標は作らせるものではなく、対話の中で引き出すものです。
目標設定の定義とは何か

本記事における目標設定とは、
会社の理念をもとに、スタッフ一人ひとりが「どんな介護を実現したいのか」を言語化し、具体的な行動に落とし込むことを指します。
ここで重要なのは、目標は単なる「やることリスト」ではないという点です。
リーダーが決めて与えるものでも、形式的に書かせるものでもありません。
目標とは、
・本人の考えや価値観(介護観)
・会社や事業所の理念
この2つをつなぎ、現場での行動として表現したものです。
そのため、同じ職場であっても目標は一人ひとり異なります。
また、目標設定は「書くこと」自体が目的ではなく、
面談を通して考えを整理し、自分の言葉で納得できる状態をつくるプロセスそのものに意味があります。
なぜ目標設定がうまくいかないのか

年度のはじめに目標を設定しても、
「結局形だけで終わってしまう」「現場の行動が変わらない」
そんな経験はないでしょうか。
実は、目標設定がうまくいかないのは、スタッフ個人の問題ではありません。
多くの場合、「目標の作り方そのもの」に原因があります。
よくあるのが、目標が「とりあえず書くもの」になってしまっているケースです。
会社から言われたから書く、評価のために埋める。
その状態では、目標は行動につながりません。
また、リーダーが一方的に目標を決めてしまうこともあります。
「この人にはこれをやってほしい」という意図はあっても、本人の納得がなければ、やらされ感が残り、継続しません。
反対に、「自分で考えて書いて」と丸投げしてしまうケースもあります。
一見主体性を尊重しているように見えますが、考えるための材料や視点がなければ、スタッフは何を書けばいいかわからず止まってしまいます。
さらに多いのが、理念と切り離された目標になっていることです。
個人の頑張りや業務の効率だけに焦点が当たると、現場全体の方向性とズレが生じます。
その結果、それぞれがバラバラの方向を向いたまま働くことになります。
このように、
・とりあえず書かせる
・リーダーが決める
・丸投げする
・理念とつながっていない
といった状態では、目標は機能しません。
では、どうすればいいのか。
目標設定で本当に大切なのは、「正しい目標を書くこと」ではなく、
本人が納得し、自分の言葉で語れる状態をつくることです。
そのためには、目標を「作らせる」のではなく、面談の中で「引き出す」という視点が必要になります。
次の章では、目標設定を行う前に、リーダーとして揃えておくべき前提条件について解説します。
目標設定の前に揃えるべき前提条件

面談の進め方や目標設定のやり方を知っていても、それだけでは良い目標は作れません。
なぜなら、「何を目指すか」が曖昧なままだと、目標の方向性が定まらないからです。
たとえば、質問の仕方や面談の流れを理解していても、
リーダー自身が「どんな現場をつくりたいのか」を持っていなければ、話は深まりません。
結果として、無難で当たり障りのない目標に落ち着いてしまいます。
また、「理念をもとに考える」と言われても、
リーダー自身が理念を現場でどう実現するのかを理解できていなければ、スタッフに伝えることはできません。
つまり、やり方だけでは“形”は整っても、“中身”が伴わないのです。
この状態で面談を行うと、どれだけ丁寧に関わっても、目標は形だけで終わってしまいます。
では、どうすればよいのでしょうか。
目標設定の前に、リーダーとして揃えておくべき前提は大きく3つあります。
まず一つ目は、理念を自分の言葉で理解していることです。
理念をそのまま説明できることと、現場でどう実現するかを語れることは別です。
「利用者に寄り添うとは何か」「この施設でそれをどう形にするのか」を、自分の言葉で説明できていることが重要になります。
二つ目は、リーダー自身の目指す現場が言語化されていることです。
理念をもとに、「どんな現場をつくりたいのか」「そのために何を大切にするのか」が明確でなければ、スタッフと方向性を共有することはできません。
面談は、ただ話を聞く場ではなく、方向性をすり合わせる場です。
そのためには、リーダー自身が示すべき“軸”を持っている必要があります。
三つ目は、面談の目的を正しく捉えていることです。
面談を「目標を書かせる場」と考えてしまうと、どうしても形にこだわってしまいます。
その結果、無理に書かせたり、リーダーが決めてしまったりと、本来の目的からズレていきます。
面談の目的は、目標を完成させることではありません。
スタッフが自分の考えに気づき、それを言葉にできる状態をつくることです。
この前提が揃ってはじめて、目標は意味を持ちます。
理念を自分の言葉で語れること。
つくりたい現場が明確であること。
そして、面談を対話の場として捉えていること。
この3つが揃っているかを、まずは確認してみてください。
次の章では、実際に面談の中でどのように目標を引き出していくのか、具体的な流れを解説していきます。
面談で目標を引き出す基本の流れ

目標は、一方的に決めるものでも、本人に丸投げするものでもありません。
面談の中で、段階的に引き出していくことが重要です。
面談を行う前に、良い面談と悪い面談を知っておきましょう。
【良い面談とは】
・スタッフが「話したいことを話せた」「聞いてもらえた」と感じる面談。
・一方的ではなく、双方向の考えを共有できる。
【悪い面談とは】
・リーダーが一方的に話すばかりでスタッフが受け身となり「なんだかよくわからなかった」という気持ちにさせる面談。
基本の流れはシンプルです。
①リーダーの考えを伝える
②相手の考えを引き出す
③一緒に目標にする
この3つのステップで進めていきます。
①リーダーの考えを伝える
まず最初に行うのは、「自分がどこを目指しているのか」を伝えることです。
ここを飛ばしてしまうと、スタッフは何を基準に考えればいいのかわからず、目標がぼやけてしまいます。
伝える内容は、
・会社の理念をどう解釈しているか
・どんな現場をつくりたいのか
・そのために何に取り組むのか
です。
たとえば、
「利用者に寄り添った介護を実現するために、私は“自立した生活に近づける介護”を大切にしたいと考えています。そのために、3大介護の質を上げることと、認知症ケア・終末期ケアに取り組んでいきます。」
このように、“理念 → 解釈 → 方向性”の順で伝えると、スタッフも理解しやすくなります。
ここで大切なのは、「正解を押しつけること」ではなく、考えるための軸を示すことです。
② 相手の考えを引き出す
次に、スタッフ自身の考えを引き出していきます。
ここでの目的は、「正しい答えを言わせること」ではなく、本人の中にある考えを言語化することです。
質問はシンプルで構いません。
「どんな介護がやりたい?」
「どんな介護はやりたくない?」
多くのスタッフは、すぐには答えられません。
それは考えていないのではなく、言葉にした経験がないだけです。
その場合は、日々の行動から引き出していきます。
「最近うまくいったケアは?」
「利用者さんに喜ばれたことは?」
「大変だったけど工夫したことは?」
こうした具体的な出来事をもとに話を聞くと、その人が大切にしている価値観が見えてきます。
そして、それをリーダーが言葉にします。
「それって、利用者のペースを大事にしているってことだよね」
この“言語化のサポート”が、面談で最も重要なポイントです。
③ 一緒に目標にする
最後に、引き出した考えをもとに目標にしていきます。
ここでやりがちなのが、
・リーダーが決めてしまう
・「じゃあ書いてみて」と丸投げする
この2つです。
どちらも、本人の納得感が弱くなり、行動につながりません。
大切なのは、「一緒に言葉にすること」です。
たとえば、
「利用者のペースを大事にしたいって話だったよね。それを現場で形にするとしたら、何から始める?」
このように問いかけながら、具体的な行動に落とし込んでいきます。
目標は完璧である必要はありません。
大切なのは、本人が納得しているかどうかです。
ポイント
この流れで重要なのは、順番を守ることです。
いきなり目標を書かせるのではなく、
「方向を示す → 考えを引き出す → 一緒に形にする」
というプロセスを踏むことで、はじめて意味のある目標になります。
面談で目標を引き出すためには、特別なスキルが必要なわけではありません。
大切なのは、答えを与えるのではなく、対話の中で考えを引き出すことです。
この基本の流れを押さえるだけで、面談の質は大きく変わります。
スタッフのタイプ別|目標の引き出し方

面談の基本の流れを押さえても、すべてのスタッフに同じ関わり方をしていては、うまくいきません。
なぜなら、スタッフの状態によって、タイプが異なるからです。
ここでは、現場でよく見られる4つのタイプに分けて、関わり方と目標の引き出し方を解説します。
あくまでも、わたしの経験上でのパターンです。
4つのパターン
1.介護職として軸を持っている人(やりたい介護・やりたくない介護が明確)
2.特に何も考えず介護職をやっている人(言われたことはやる/深く考えたことがない)
3.理念とズレた軸を持っている人(「自分なりの介護」はあるが、会社との方向性が違う)
4.介護の仕事に迷いを感じている人(向いていないのではなく「合っている実感が持てない」)
1.介護職として軸を持っている人(やりたい介護・やりたくない介護が明確)
このタイプは、「どんな介護をしたいか」「何はやりたくないか」をすでに言葉にできます。
そのため、目標設定自体はスムーズに進みます。
ここでリーダーが意識するべきことは、
その考えを理念とどうつなげるかです。
たとえば、
「その考えは、理念でいうとどこに当てはまると思う?」
「それを現場で形にするとしたら、何から始める?」
といった問いかけを行います。
このタイプには、
・役割を持たせる
・少し背伸びした目標を設定する
ことで、成長とやりがいにつながります。
2.特に何も考えず介護職をやっている人(言われたことはやる/深く考えたことがない)
このタイプは、言われたことはきちんとこなしますが、
「どんな介護をしたいか」と聞かれると答えに詰まります。
ここでやってはいけないのが、
「じゃあ目標を書いてみて」と任せてしまうことです。
まずは、日々の行動を振り返るところから始めます。
「最近うまくいったケアは?」
「利用者さんに喜ばれたことは?」
「工夫したことはある?」
こうした具体的な話から、その人が大切にしている視点を見つけます。
そしてリーダーが言語化します。
「それって、利用者のペースを大事にしているってことだよね」
そこから、小さく具体的な目標に落とし込んでいきます。
このタイプは、関わり方次第で大きく成長する可能性があります。
3. 理念とズレた軸を持っている人(「自分なりの介護」はあるが、会社との方向性が違う)
このタイプは、自分なりの考えはありますが、理念と方向がズレている状態です。
ここで大切なのは、
否定しないが、そのまま認めないことです。
まずはしっかり話を聞いたうえで、理念に立ち返ります。
「その介護は、理念でいうとどう表現できると思う?」
「利用者にとってどんな意味があるかな?」
「間違っている」と伝えるのではなく、
理念という共通の軸に戻す関わりが重要です。
それでもズレが大きい場合は、目標設定以前に価値観のすり合わせが必要になることもあります。
4. 介護の仕事に迷いを感じている人(向いていないのではなく「合っている実感が持てない」)
このタイプは、「向いていないのではないか」と不安を抱えている状態です。
ここでやってはいけないのが、
高い目標や成長を求めすぎることです。
まずは、「できていること」に目を向けます。
・継続して出勤できている
・利用者との関係を大切にしている
・困ったときに相談できている
こうした事実を一緒に確認し、土台を整えます。
目標も、成長ではなく安心して働くためのものにします。
たとえば、
「この介助を落ち着いて一人でできるようになる」
「困ったときに相談できる相手を明確にする」
このタイプにとって目標は、前に進むための“支え”であることが重要です。
タイプ別対応のポイント
すべてのスタッフに同じ関わり方をするのではなく、
その人の状態に合わせて関わり方を変えることが重要です。
・引き上げるべき人
・引き出すべき人
・整えるべき人
・支えるべき人
それぞれ役割が違います。
面談で目標を引き出すために大切なのは、
「やり方」ではなく「関わり方」です。
リーダーが答えを持つのではなく、
スタッフが自分の言葉で気づけるように支援すること。
そして、その人の状態に合わせて関わること。
これができるようになると、
目標は“書くもの”から“行動につながるもの”へと変わっていきます。
目標設定でよくある失敗と注意点

ここまで目標の引き出し方を解説してきましたが、現場ではうまくいかないケースも多くあります。
その多くは、いくつかの共通した失敗パターンに当てはまります。
まず一つ目は、リーダーが目標を決めてしまうことです。
「この人にはこれをやってほしい」という思いから、目標を提示してしまうケースです。
一見スムーズに進むように見えますが、本人の納得がないため、やらされ感が残り、行動につながりません。
二つ目は、すべてを本人に任せてしまうことです。
主体性を尊重しようとして「自分で考えてみて」と丸投げしてしまうと、考える材料がないスタッフは手が止まってしまいます。
結果として、無難な目標や空欄のまま終わることも少なくありません。
三つ目は、理念と切り離された目標になっていることです。
個人の努力や業務の効率だけに焦点が当たると、現場全体の方向性とズレが生まれます。
その状態が続くと、チームとしての一体感がなくなり、バラバラな介護になってしまいます。
四つ目は、目標のレベルが合っていないことです。
成長段階や状態に合わない目標を設定すると、負担になったり、逆に物足りなくなったりします。
特に、迷っているスタッフに高い目標を求めすぎると、離職のリスクにもつながります。
理念とつながった目標のメリット・デメリット

理念とつながった目標には、多くのメリットがあります。
まず、行動に迷いがなくなることです。
目標が理念と結びついていると、「何を大切にすればいいのか」が明確になります。
その結果、日々の判断に一貫性が生まれます。
次に、現場の方向性がそろうことです。
一人ひとりの目標が理念につながることで、チーム全体が同じ方向を向いて動くようになります。
さらに、やりがいや納得感が高まることも大きなメリットです。
自分の考えとつながった目標は、「やらされている」ではなく「自分で選んでいる」という感覚につながります。
一方で、デメリットもあります。
それは、時間と手間がかかることです。
一人ひとりと対話を重ねる必要があるため、短時間で効率よく終わらせることはできません。
また、すぐに結果が出ないこともあります。
目標は立てた瞬間に変化が起きるものではなく、日々の積み重ねによって徐々に現れてくるものです。
しかし、この手間をかけることで、結果的に現場の質は大きく変わっていきます。
目標は「書かせる」のではなく「引き出す」

結論は、目標は作らせるものではなく、面談の中で引き出すものです。
リーダーが答えを与えるのでも、本人に丸投げするのでもなく、理念を軸に対話することで、はじめて意味のある目標になります。
そのためには、面談のやり方だけでなく、
・理念を自分の言葉で語れること
・つくりたい現場を持っていること
・相手に合わせて関わり方を変えること
が欠かせません。
ここが整えば、目標は「提出するもの」から「行動につながるもの」へと変わります。
まずは次の面談で、完璧を目指す必要はありません。
「どんな介護がやりたい?」
「どんな介護はやりたくない?」
この2つを丁寧に聞くことから始めてみてください。
その対話が、スタッフの目標を変え、現場を変えていきます。


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