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【認知症・BPSD】周辺症状の原因と介護現場での対応方法

介護観

担当している認知症の利用者が、突然暴言を吐くようになった。
夜中に徘徊を繰り返す。昨日まで穏やかだったのに、今日は別人のように怒り出す。
そんな場面に直面して、「どう対応すればいいのか」と途方に暮れたことはありませんか?

実は、認知症のBPSD(行動・心理症状)は、適切なケアによって軽減できる可能性があります。

なぜなら、周辺症状の多くは「脳の病気だから仕方ない」のではなく、身体の不調・生活環境・関わり方など、取り除ける原因から発症しているからです。
原因がわかれば、対策が打てます。

私は介護業界10年以上、複数の施設でリーダーを経験してきました。
数え切れないほどの認知症の方と向き合い、症状の軽減に取り組んできた一人です。

この記事では、BPSDの定義・症状・軽減する7つのケア・生活環境づくりの原則をお伝えします。

この記事を読むと、原因を特定してチームで対策を打つための具体的な視点が身につきます。

結論は、BPSDは「防げないもの」ではなく、「原因を取り除くことで軽減できるもの」です。

BPSDと中核症状の違い

認知症の症状は大きく2つに分けられます。「中核症状」と「BPSD(行動・心理症状)」です。

中核症状とは

脳の神経細胞が障害されることで直接引き起こされる認知機能の低下です。
記憶障害・見当識障害・実行機能障害などがあり、認知症と診断された方のほぼ全員に現れます。
現時点では完治が難しく、進行を遅らせることが治療の目標です。

BPSDとは

「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の頭文字をとった言葉で、日本語では「行動・心理症状」または「周辺症状」と訳されます。
中核症状が土台にあり、そこに身体の不調・生活環境の変化・周囲の関わり方などの要因が重なることで発症します。
すべての認知症の方に現れるわけではありませんが、在宅認知症高齢者の約8割になんらかのBPSDが認められるという調査結果もあります。

中核症状との最大の違いは、BPSDは適切なケアによって軽減できる可能性があるという点です。
リーダーとしてスタッフに「BPSDは対応次第で変わる」という視点を伝えてください。

BPSDへの具体的な対応方法

認知症の帰宅願望への具体的な対応事例を知りたい方はこちら▼

BPSDが軽減する7つのケア

健常者でも、体調を崩すと気分が落ち込んだり、イライラしたりすることがあります。
「体がだるい。熱があるかもしれない。病院へ行こう」という判断が自分でできるからこそ、対策が打てます。

ところが認知症の方は、体に異変を感じても何が原因かわかりません。
その不快感や不安が、徘徊・暴言・暴力といったBPSDとして表れます。
つまり、BPSDの裏側には必ず「何らかの不快感」が隠れています。

以下の7つは、認知症の方のBPSDの引き金になりやすい身体的・環境的な要因です。
スタッフがこれを把握し、日常のケアで整えることで、BPSDの発症を予防・軽減できます。

① 便秘|BPSDの引き金

  • チェック:何日排便がないか記録する
  • 対策:朝食後の軽い運動、座位での排便、食物繊維・水分の見直し
  • BPSD例:腹痛→不安感→徘徊や訴えの増加

下剤で一時的に出しても、根本解決にはなりません。
腸の自然なリズムを取り戻すことが大切です。
排便記録をつけ、チームで状態を把握する習慣をつくりましょう。

② 脱水|幻覚や混乱も

  • 目安:体重1kgあたり25〜30mlの水分が必要
  • 対策:温度や味を工夫した飲み物、ゼリーや果物で水分補給
  • BPSD例:脱水→意識混濁→幻覚・幻聴

高齢者は「喉が渇いた」と感じにくいため、こまめな声かけが重要です。
「一口飲みましょう」という習慣をチーム全体で共有することが大切です。

③ 発熱|体温変化に注意

  • チェック:普段と違う言動があれば体温測定
  • 対策:空調調整、解熱剤の使用、看護師との連携
  • BPSD例:発熱→食欲不振→脱水→せん妄

「なんかいつもと違う?」が出発点です。
スタッフには「いつもと違う」を見逃さない観察眼を養ってもらいましょう。
まずは体温をチェックする習慣が重要です。

慢性疾患の悪化サイン

  • チェック:高血圧・糖尿病・心疾患などの状態を日々確認
  • 対策:体調変化を見逃さず、医療職へ早期相談
  • BPSD例:身体の不快感→イライラ→暴言・暴力

内臓の不調が、直接的に行動変化として表れるケースもあります。
スタッフだけで判断せず、看護職と連携して早期対応することが重要です。

季節の変わり目の注意

  • 注意点:気温差・日照時間の変化が生活リズムに影響する
  • 対策:部屋の明るさ・衣類調整・起床と就寝リズムの安定
  • BPSD例:生活リズムの乱れ→転倒・混乱・徘徊

冬場は起床時間がいつもより遅くならないよう注意が必要です。
季節の変わり目はBPSDが増えやすい時期として、チーム全体で意識を共有しておきましょう。

薬の副作用に注意

  • チェック:抗精神病薬や睡眠薬の種類・量の見直し
  • 対策:医師と定期的に薬の内容を確認
  • BPSD例:感情の平坦化・反応の鈍化→”無反応”に見える

本当に落ち着いているのか、それとも薬の影響でぼんやりしているのか。
よく観察する必要があります。
「落ち着いた」と安心する前に、薬の影響がないかを確認する視点をスタッフに持ってもらいましょう。

PTSDへの対応

  • BPSD例:過去のトラウマ→フラッシュバック→暴力・暴言
  • 対策:泣く・笑う・歌う・踊るなどの情動解放を意識的に行う

過去に受けた傷や怖い体験が、認知機能の低下によって突然よみがえることがあります。
感情を安全に表現できる場と関係性をつくることが、BPSDの軽減につながります。

生活環境づくり7原則

BPSDへの対応で忘れてはならないのが「生活環境を整えること」です。
認知症の方は環境の変化に敏感で、環境が安定していると症状が落ち着きやすくなります。
以下の7原則を、チーム全体で共有してください。

① 環境を変えない

入居や転室など、環境の変化はBPSDを悪化させる大きな要因です。
どうしても変える必要がある場合は、なじみの家具や日用品を持ち込み、本人が「自分の場所」と感じられる工夫をします。

② 生活習慣を変えない

起床・食事・入浴・就寝など、ご自宅での1日の流れをできる限り施設でも継続します。
生活リズムの安定が、心の安定につながります。

③ 人間関係を急に変えない

担当スタッフを頻繁に変えることは、認知症の方にとって大きなストレスになります。
なじみの関係をつくることが、安心感の土台になります。

④ 三大介護は基本通りに

トイレに行ける方をベッド上でおむつ交換したり、個浴に入れる方を機械浴にしたりすることは「今まで通りの生活」とは言えません。
基本に立ち返り、できることは自分でやってもらう支援を心がけます。

三大介護(食事・排泄・入浴)それぞれの基本的な考え方と手順はこちら▼

⑤ 個性的な空間をつくる

自宅で使っていた家具・写真・思い出の品を部屋に置くことで、「ここは私の場所」という感覚が育まれます。
見慣れた物に囲まれることが、安心感につながります。

⑥ 役割をつくる

「自分は必要とされている」という実感が、認知症の方の意欲と安定につながります。
得意なことや好きなことを活かした役割を見つけ、日課にしていきます。

⑦ 関係づくりを大切に

名前を呼ぶ、目を合わせる、笑顔で接する。こうした日常のコミュニケーションの積み重ねが、信頼関係をつくり、BPSDの軽減につながります。

BPSDの症状一覧

BPSDには「行動症状」と「心理症状」の2種類があります。

行動症状(外から見える症状)

症状具体的な場面
徘徊「家に帰らなければ」と施設内外を歩き回る
暴言・暴力介助中に突然怒鳴る・手を払いのける
帰宅願望「ここは私の家じゃない」と繰り返し訴える
介護への抵抗入浴・排泄介助を強く嫌がる
異食食べ物ではないものを口に入れようとする
不潔行為便を触る・壁になすりつけるなどの行動
昼夜逆転昼間に眠り、夜間に起き出して活動する
収集癖他者の持ち物を集めてしまう
過食・拒食食べすぎる・食事をとらなくなる

心理症状(内側の症状)

症状具体的な場面
幻覚「誰かいる」「虫が見える」と訴える
妄想「財布を盗まれた」(物盗られ妄想)と思い込む
抑うつ何もしたくない・涙が出る
不安・焦燥落ち着かない・ソワソワして座っていられない
睡眠障害夜眠れない・眠りが浅い
易怒性些細なことで強く怒る

BPSDはすべて、その方なりのコミュニケーションです。
「困った行動」ではなく「この方は今何を伝えようとしているのか」という視点で考えることが重要です。

BPSDが発症する理由

中核症状を土台として、3つの要因が重なることで発症します。

①身体的要因

便秘・脱水・発熱・慢性疾患の悪化・薬の副作用など、身体の不調がBPSDの引き金になります。
認知症の方は不快感を言葉で正確に伝えられないため、身体の不調がBPSDという形で表れます。
スタッフには「BPSDが出たとき、まず身体の状態を確認する」習慣をつけてもらいましょう。

②環境的要因

引越し・入院・担当スタッフの交代など、生活環境の変化がBPSDを引き起こします。
否定する・急かす・無視するといった関わり方も、BPSDを悪化させる要因になります。

③心理的要因

自己喪失感・孤独感・過去のトラウマなど、心理的なストレスがBPSDを引き起こします。
認知症の方は出来事を忘れても、感じた感情は残ります。
嫌な思いをさせると不快感が残り続け、BPSDにつながります。

BPSDの治療法

BPSDの治療は非薬物療法が優先されます。
厚生労働省のガイドラインでも、薬を使う前にまず非薬物療法を試すことが推奨されています。

非薬物療法

  • 回想法:昔の思い出話や写真・音楽をきっかけに過去の記憶を引き出す
  • 音楽療法:好きな音楽を聴く・一緒に歌うなど、脳に刺激を与え気持ちを安定させる
  • 運動療法:散歩や軽い体操で脳の活性化・睡眠の質向上につなげる
  • 芸術療法:絵・折り紙・粘土など創作活動を通じて感情を表現する
  • リアリティオリエンテーション:日付・季節・場所を自然な会話に取り入れ現実認識を深める

薬物療法

非薬物療法で効果が得られない場合に、医師の判断のもと検討されます。
抗認知症薬・抗精神病薬・抗うつ薬・睡眠薬などが症状に合わせて処方されます。
ただし副作用のリスクがあるため、スタッフには「落ち着いた」と感じたときも薬の影響がないか観察する視点を持ってもらうことが重要です。

注意点・メリット・デメリット

メリット

  • BPSDの原因を特定することで、薬に頼らないケアで症状を軽減できる
  • スタッフが「BPSDは訴えである」という視点を持つことで、利用者への関わり方が変わる
  • 生活環境を整えることで、BPSDの予防と認知症の進行抑制につながる

デメリット

  • 原因の特定に時間がかかる。チームで情報共有しながら根気よく続ける必要がある
  • 生活環境を変えないことが理想だが、施設の都合で変えざるを得ないケースもある
  • スタッフ全員に視点が浸透するまでに時間がかかる

注意点

  1. BPSDへの対応はスタッフ一人で判断せず、チームで情報共有しながら進めることが重要です
  2. 薬の変更・追加があった場合は必ず看護職・医師と連携し、状態変化をチームで把握してください
  3. BPSDが急激に悪化した場合は、身体的な疾患が隠れている可能性があります。看護職への報告を忘れずに

まとめ:BPSDは軽減できる

BPSDは「認知症だから仕方ない」ものではありません。
便秘・脱水・発熱・生活環境の変化・心理的ストレスなど、取り除ける原因から発症しています。
原因を特定し、チームで対策を打つことで軽減できる可能性があります。

リーダーとしてスタッフに伝えてほしいのは「BPSDは訴えである」という視点です。
暴言・徘徊・幻覚はすべて、その方が「助けてほしい」「不快だ」と伝えようとしているサインです。
この視点がチームに根付くと、BPSDへの対応は大きく変わります。

まずは次にBPSDが出たとき、「何が原因か」を考えるところから始めてください。その一歩がチームを変えます。

介護リーダーとして次のステップを知りたい方はこちら▼

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