介護施設の研修内容〜法定研修だけでは変わらない現場を動かす3大介護〜

チームづくり

介護施設には、法定研修があります。
虐待防止研修や感染症対策研修など、ご利用者へ安心・安全で質の高いサービスを提供するために法律や省令で実施が義務づけられている研修です。

介護リーダーとして現場を任されるようになると、こんな違和感を覚えたことはありませんか。

「法定研修はきちんとやっている。でも、本当に現場のケアの質は上がっているのだろうか?」

事故を起こさない、法令違反をしない。
法定研修の多くは、施設運営や職員の立場、そして命に関わる最低限の安全を守るための研修です。
もちろん、これは欠かせない大切な取り組みです。

実は、法定研修をどれだけ丁寧に行っていても、
それだけでご利用者の満足度や生活の質(QOL)が高まるとは限りません。

なぜなら、ご利用者の生活の質を大きく左右しているのは、
日々繰り返される入浴・排泄・食事といった日常ケアの質だからです。

わたしはこれまで、リーダーとして現場で働く中で、
「事故は防げているのに、安心・安全で質の高いサービスを提供できている実感が持てない」
と感じていました。

そこで、法定研修とは別に、入浴・排泄・食事に焦点を当てた実践ケア研修を現場で行ってきました。

この記事では、法定研修ではカバーしきれない、
現場のケアの質を本当に高めるための研修の考え方と実践方法を、
介護リーダーの視点でお伝えします。

この記事を読むと、
法定研修だけでは補いきれない、 ご利用者の本来の力を、生活の中で支えるためのヒントが得られます。

結論は、
法定研修は「安全とルールを守るための土台」。
その上に、日常ケアの質を高める実践ケア研修を重ねてこそ、
ご利用者にとって本当に意味のある介護が実現します。

3大介護(入浴・食事・排泄)がなぜ重要なのか

冒頭でもお伝えしたように、
ご利用者様の満足度や生活の質(QOL)を大きく左右しているのは、
入浴・排泄・食事といった、日々繰り返される日常ケアです。

ではなぜ、この3大介護(入浴・食事・排泄)が重要なのでしょうか。
それは、これらが身体機能の維持と低下に直結するケアだからです。

人は食事を摂ることでエネルギーを蓄え、力がつき、元気になります。
反対に、食事が十分に摂れなくなると、体力は落ち、活動量も減り、心身の機能は急速に低下していきます。
高齢者の場合、「食事が摂れなくなった」という事実が、看取りの判断につながることもあります。
つまり、食事は生きるための源なのです。

食事が摂れなくなる理由は、病気や加齢など様々あります。
しかし一つだけ、あってはならない原因があります。
それは、職員の知識不足や介助レベルの低さが原因で、できることまで奪ってしまうことです。

例えば、
・姿勢が整っていないまま食事介助を行っている
・本来トイレに行ける方が、手間を理由にベッド上で排泄交換をされている

このような関わりは、身体機能の低下を早めるだけでなく、
ご利用者の尊厳や「できる力」を奪ってしまいます。

だからこそ、3大介護では
「そのケアのゴールは何か」を明確にし、
そこに向かって日々の介助を積み重ねていくことが重要です。

入浴・食事・排泄は、単なる作業ではなく、生活そのものです。
関わり方ひとつで、身体機能を守ることも、失わせることもあります。
それほど重要なケアだからこそ、3大介護は現場で最も丁寧に向き合う必要があるのです。

3大介護、それぞれの研修で設定したゴール

実践ケア研修では、
「安全に終わらせること」や「作業をこなすこと」ではなく、
そのケアを通して、ご利用者がどうなってほしいのかをゴールとして明確にしました。

ここでは、食事・排泄・入浴、それぞれの研修で設定したゴールをお伝えします。

食事 ──「元気になる」

食事の目的は、ただ食べることではありません。
「元気になるための行為」です。

食事から栄養を取り入れることで、体力が維持され、活動量が保たれ、生活の質(QOL)も向上します。
反対に、食事が十分に摂れなくなると、体力は落ち、心身の機能は急速に低下していきます。

わたしが研修で伝えた考え方は、
「これまで当たり前にしてきた食べ方を、できる限り続けること」です。

そのために設定したゴールが、
「椅子に座って、口から自分で食べる」です。

なぜ「椅子に座る」ことが大切なのか

現場では、車椅子に座ったまま食事をしている光景をよく目にします。
しかし、車椅子は本来「移動用」です。
座面や背もたれの構造上、後傾姿勢になりやすく、誤嚥や窒息のリスクが高まります。
※もちろん、座位が安定しない方にはリクライニング車椅子が適しているなど、例外はあります。

また、車椅子から椅子へ移る際には、
足に力を入れたり、身体を動かしたりする必要があります。
これは、日常生活の中で行える小さな生活リハビリにもなります。

「自分で食べる」ための環境づくり

次に大切なのが、自分で食べられる環境を整えることです。
ポイントは「姿勢」と「自助具」です。

姿勢チェックのポイント

  • 足底がしっかり床についているか
  • 前傾姿勢がとれているか
  • 背もたれに適切に寄りかかれているか
  • テーブルの高さは適切か(肘が90度を目安)

姿勢が崩れたままでは、食事そのものが困難になります。

自助具の活用

  • 箸が使えるか
  • スプーンは持てるか
  • 口まで運ぶ動作が可能か

これらを丁寧にアセスメントし、
「どうすれば、この方が口から自分で食べられるか」を考えることが、自立支援です。

例えば、指先が使いづらい方には、曲がるスプーンを用意するなど、
ちょっとした工夫で「できる」が広がります。

どうしても自分で食べることが難しい方には、
スプーンを握ってもらい、職員が手の甲を支えながら口まで運ぶという方法があります。
これは「代わりに食べさせる」のではなく、食事動作の一部に参加してもらう支援です。

握ることさえ難しい方の場合は、全介助になります。
しかし全介助であっても、目指すべきゴールは同じです。

  • 一口量を調整する
  • ペースを急がない
  • 表情や呼吸を確認する

こうした関わりを意識することで、「ただ流し込む食事」ではなく、
安心して、落ち着いて食事ができる時間をつくることができます。

自立支援とは、
「すべてを自分でやってもらうこと」ではありません。

排泄 ──「重力を使って、お腹の中を空っぽにする」

排泄は単なる生理現象ではありません。
重力を利用して直腸や膀胱を空にし、次の食事や活動につなげる大切な行為です。

ここで一つ、問いかけです。

3日間お通じが出ていない利用者がいます。
あなたなら、どう対応しますか?

すぐに下剤や座薬を使うでしょうか。
それとも、ケアの方法を見直すでしょうか。

私が研修で伝えた答えは、
「まずケアの方法を見直す」です。

設定したゴールは、
「トイレで排泄する」こと。

そのために、
「どうすればこの方を安全にトイレへ誘導できるか」を考えます。

便座に座れば重力でお通じは出やすくなりますが、ベッド上では重力が働かないため出にくくなります。
また、これまでトイレで排泄してきた方にとって、いきなりオムツの中で排泄することには、多くの場合強い抵抗があります。
尊厳を守る意味でも、「トイレで排泄をしてもらう」という考えは持ってもらう必要があります。

自立度別 排泄ケアのアプローチ

自力でトイレに行ける方
  • 手すりや家具を使った伝い歩きができる環境を整える
  • 立てるが歩けない場合は、手すり設置+車椅子移乗
  • ポータブルトイレの活用
  • はいずり可能な方には、床に近い生活環境への調整
介助が必要な方
  • 手引き歩行でのトイレ誘導
  • 車椅子でのトイレ誘導
トイレ誘導が難しいケース
  • 看取り期の方
  • 骨折などで強い痛みがある方
  • 2人介助でも安全確保が難しい方

※無理な移動は危険を伴うため、状況に応じた判断が必要です。

排泄ケアは認知症予防にもつながる

認知症の方でも、「ムレ」「ぬれ」といった不快感は感じています。

トイレで排泄できずパッド内で済ませる場合、自らパッドを外そうとしたり、ナースコールで頻繁に押す行動が見られます。
しかし職員が迅速に対応できなければ、ご利用者がひとりでトイレに行こうとし、転倒や骨折につながるリスクが高まります。結果、場合によっては身体拘束(腕を縛る等)につながることもあります。

こうした状態が続くと、「排泄していない」と不快感を忘れようとし、認知機能のさらなる低下を招く恐れがあるのです。
だからこそ、認知症予防の観点からも「トイレで排泄すること」は非常に重要なのです。

入浴 ──「リラックスする場所」

日本人にとって入浴は、単なる清潔保持ではありません。
湯船に浸かることは、
「疲れを癒す」「一日の区切りをつける」「心を落ち着かせる」
大切な生活文化です。

介護現場でも、「お風呂は嫌い」と言っていた方が、
湯船に浸かると穏やかな表情になり、「気持ちよかった」と話される場面は多くあります。

こうした姿からも、
入浴にはその人らしさを取り戻す力があることがわかります。

研修で設定したゴールは、
「普通の個浴に入る」ことです。

なぜ個浴なのか

多くの方は、何十年も一般的な浴槽に入って生活してきました。

機械浴のように、寝た状態で持ち上げられたり、横から勢いよくお湯が出たりする入浴方法は、
恐怖心が先に立ち、「リラックス」とは程遠いものです。

また、機械浴では洗体・洗髪を職員が行うことが多く、
ご利用者は受け身になりやすく、自立支援が行いにくい環境でもあります。

個浴を可能にする工夫

① 環境整備

  • 浴槽と同じ高さの椅子やバスボードを用意
  • 滑り止めマット、手すりの設置

② 入浴動作の工夫

  • 足を片方ずつ浴槽に入れる
  • 介助者は近くで見守り・支える

③ 姿勢安定の工夫

  • 足裏で浴槽の壁を押し、踏ん張る
  • 前かがみ姿勢で後方転倒を防ぐ
  • 手は浴槽の縁に置く

無理をしない判断も尊厳

ただし、
すべての方に個浴を勧める必要はありません。

  • 両下肢の筋力がほぼない
  • 失神・てんかんのリスクが高い
  • 強い恐怖や拒否がある

こうした場合は、無理に個浴へ導かない判断も、尊厳を守るケアです。

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3大介護を「現場で継続させる仕組みづくり」

3大介護(入浴・食事・排泄)の研修は、一度やっただけでは現場に根づきません。

なぜなら、
介護観は「座学」ではなく、
日々の関わりの中で上書きされ続けるものだからです。

だからこそ重要なのが、
研修内容を以下の3つの場面に意図的につなげることです。

  1. 現場(フロア)
  2. 申し送り
  3. 会議(ミーティング)

何度も同じことを言っていくうちに施設の当たり前になります。

言い続けることは大変ですが。。

① 現場(フロア)

── 介護観がもっともリアルに表れる場所

最も介護観が表れるのは、
日々の現場です。

たとえば
食事介助の姿勢
 「安全優先で全介助にするか」「少し時間をかけてでも自分で食べてもらうか」

排泄の判断
 「失敗を避けるためオムツ対応にするか」「トイレで排泄できる可能性を探るか」

入浴時の声かけ
 「業務優先で流すように行うか」「本人の不安に寄り添いながら進めるか」

ここに、その人の価値観が出ます。

だからこそ、
「違和感を覚えた瞬間」が最大のチャンスです。

❌ 後から注意する
⭕ その場で問いかける

例えば、

  • 「その対応、どんな意図があったの?」
  • 「自分ならこうするかも。なぜなら…」

これは叱責ではなく、
考えを言語化させる関わりです。

その場で伝えるからこそ、理解が深く、定着します。

② 申し送り

── 3大介護を“当たり前”にする送り方

申し送りは、
単なる出来事の共有ではありません。

研修で学んだことを、
申し送りで触れられなければ現場には定着しません。
逆に、毎日の申し送りで繰り返されることが、
その施設の「基準」になります。

申し送りで見るべきポイント

3大介護を定着させるには、「何をしたか」ではなく、
ゴールに近づいたかどうかを送ります。

研修で設定したゴールは、

  • 食事:元気になる
  • 排泄:トイレで排泄する
  • 入浴:リラックスする

申し送りでは、この視点で現場を評価します。

3大介護につながる申し送り例

食事
「椅子に座って自分で食べられ、ムセもなく表情が良かった。この姿勢で継続したいです」

排泄
「トイレ誘導で排泄でき、落ち着いていました。午後も同じ関わりをお願いします」

入浴
「個浴で湯船に浸かり、『気持ちいい』と話されていました」

全員にやらない、だから続く

すべてのご利用者に同じレベルの申し送りをするのは現実的ではありません。
私は、ターゲットを数名に絞って実践していました。

食事:意味もなく車椅子で食事しているA様
入浴:ADLに問題ないのに機械浴のB様
排泄:座位が安定しているのにオムツ交換のC様

3大介護それぞれで「気になる関わり」のご利用者を選び、
改善するまで申し送りで状況を共有し続ける方法です。

③ 会議(チーム会議)

── 3大介護を「振り返りで定着させる」

チーム会議は、
3大介護が現場でどう実践されたかを振り返る場です。

研修や申し送りで共有した内容も、
振り返られなければ「やりっぱなし」で終わります。
チーム会議では、日々のケアを一段引いた視点で整理し、
次の行動につなげます。

チーム会議で振り返る視点

振り返りの軸はシンプルです。

「そのケアは、3大介護のゴールに近づいたか?」

研修で共有したゴールを基準にします。

振り返りの進め方(例)

① 申し送りで追っていたターゲットご利用者を取り上げる
② 実際の関わり方を共有する
③ ゴールに近づいた点・難しかった点を確認する
④ 次に試す関わりを決める

※ うまくいかなかった場合も「誰が悪いか」ではなく「なぜそうなったか」で考えます。

ポイント

全員を一度に変えようとしません。
②申し送りで追っている数名のターゲットご利用者をチーム会議で振り返るだけで十分です。

この「小さな振り返り」の積み重ねが、3大介護を現場に根づかせていきます。

法定研修のその先へ

法定研修は、事故やトラブルを防ぎ、介護の「安全」を守るための大切な土台です。
しかし、ご利用者の生活の質(QOL)を高める介護は、それだけでは実現しません。
入浴・食事・排泄という3大介護を、現場でどう実践し、どう続けるかが介護の質を左右します。

3大介護は、一度研修をして終わりでは定着しません。
現場で問いかけ、申し送りで共有し、チーム会議で振り返る。
この流れを仕組みとして回し続けることで、
「やってあげる介護」から「力を引き出す介護」へと、施設の当たり前が変わっていきます。

法定研修と実践ケア研修は、対立するものではなく、役割の違う両輪なのです。

もしあなたが
「研修をしても現場が変わらない」
「3大介護を、きちんと現場に根づかせたい」
と感じているなら、まずは身近なご利用者一人の関わり方を見直してみてください。
そして、この記事で紹介した視点や仕組みを、ぜひ明日の現場から取り入れてみてください。

小さな実践の積み重ねが、
ご利用者の生活と、あなた自身の介護観を確実に変えていきます。

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