「施設の申し送りがうまくいっていない。」「内容が薄い。」と悩んでいませんか?
この悩みは、①4つ(時間・場所の確保、多職種の参加、内容の充実)のポイント②やり方(口頭やパソコンなど)を工夫すれば解決します。
なぜなら、申し送りがうまくいかない多くの原因は、情報を伝える仕組みや環境が整っていないからです。
「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どうやって」伝えるかを整理すれば、誰でも必要な情報を漏れなく共有できるようになります。
「多職種が参加すると視点が増え、内容が深まる」
「話すポイントを決めれば重要情報が抜けにくくなる」
「口頭だけでなくPCや記録を併用すれば伝達ミスが減る」
といったように、 仕組みを少し変えるだけで申し送りの質は大きく向上します。
実際、わたしの施設も以前は、お世辞にも「上手い」とは言えない申し送りでした。
「○○様いつもとお変わりありません。」が合言葉のように繰り返され、誰も疑問を持たず「了解です」で終了。
介護リーダーとして異動してきたわたしは、「そもそも“いつも”を知らないぞ…」「看取りの方がいたはずでは?なんの情報もなし?」と戸惑うばかりでした。
申し送りを聞けば、その施設のレベルがわかるといいます。申し送りが上手な施設は「トラブルが少ない印象」です。
案の定、利用者・ご家族・スタッフから「聞いていない。」などのクレームが多く寄せられていました。
当たり前を当たり前にしようと、申し送りを「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どうやって」伝えるかを整理。その中でも、一番の成果は、何を伝えるのかを明確にしたことで、スタッフは意識して利用者を観察するようになりました。
この記事では、4つのポイントをそれぞれリーダーの視点で記載していきます。また、申し送りの質が向上する組み合わせをお伝えします。
一度読んでいただくと、
・すぐに実践できる「申し送り改善の4ポイント」がわかる
・リーダー視点の実例付きで、現場に落とし込みやすい
・口頭・紙・PCなど、あなたの施設に合わせたやり方を選べる
・クレームや伝達ミスを減らし、現場の負担を軽減できる
とメリットを感じてもらえると思います。
申し送りは「センス」や「経験」ではなく、仕組みを整えれば誰でも質を上げられる業務です。
4つのポイントと適切なやり方を押さえることで、情報が伝わる、トラブルが減る、チームが動きやすくなる。
そんな申し送りが実現できます。
申し送りとは?

そもそも、申し送りとは何でしょうか?
情報を収集し、共有し、検討する場です。
情報によっては、共有して終了(「〇〇様14時からデイサービスです。準備をお願いします。」など)という場合がありますが、検討しないといけない情報もあります。
たとえば、食形態を上げた利用者の食事量や嚥下状態はどうだったのか?問題ありの場合、今後どうするのか?を検討します。
ただ実際、検討まで出来ている施設はわたしの感覚では少ないです。「で、どうするの?」って突っ込みたくなる送りです。
また共有の内容も薄かったりします。
なぜか?
それは、情報が不足しているからです。
申し送りは、情報の収集が一番大切です。ここがうまくいって、共有の内容が濃くなり検討する材料が揃います。
だからこそ、上記で記載した「何を伝えるのか」を明確にしておくことが重要です。
4つのポイント
時間の確保

申し送りはシフトが入れ替わるタイミングで行います。
それぞれ時間が確保できているか振り返ってみましょう。
例:
夜勤明け➜日勤リーダー➜夜勤入り
日勤リーダー➜その他の出勤者(早番、遅番、登録スタッフなど)
・1回の申し送りの時間が10分〜15分。
・パソコンでの申し送りをしているところがあるかもしれないが対面にこだわる。
口頭で伝えるほうが、表情・声のトーン・ニュアンスが伝わりやすく、情報のズレや誤解が起きにくい。
場所の確保

フロア、事務所、会議室など様々です。
多職種も参加するなど、一同に多くの職員が集まる場合は、事務所。
介護職のみの場合は、フロア。
のようにどこで行うのか明確にします。
・申し送りには個人情報が含まれます。お通じが何日出ていないなど、他人に聞かれて嫌な思いをする情報が多くあることを把握したうえで場所を決める。声の大きさにも配慮が必要。
◆実例まとめ
課題:日勤リーダーが不在で情報がつながらない
当時の施設には 日勤リーダーが存在せず、
夜勤明けの申し送りを事務所にて早番・日勤スタッフが聞く形になっていました。
夜勤明け → 早番・日勤へは伝わる
しかし、早番・日勤 → 遅番・夜勤入りへの伝達者がいない。
という状態で、情報が途中で途切れるのが大きな問題でした。
その結果、
「夜勤入りスタッフが大事な情報を知らない」
「遅番だけ状態変化を把握していない」
など、現場にミスや認識違いが生まれていました。
改善策:“日勤リーダー”を設置した
申し送りをスムーズにするには、誰が受け取り、誰に伝えるのかを明確にする必要がありました。
そこで、まずは 日勤リーダーを設置。
本来日勤リーダー業務は幅が広いですが、最初は役割を1つに絞り、
・夜勤明けの申し送りを確実に受け取る
・その内容を、遅番・夜勤入りへ的確に伝える
この2点だけを担当してもらいました。
成果:遅番・夜勤入りへの情報伝達が安定した
それまでは事務所で多職種との申し送りはできていたものの、
フロアの介護職同士では申し送りが成立していませんでした。
日勤リーダーを置いたことで、
遅番スタッフへの申し送りが毎日確実に実施。
夜勤入りへの伝達漏れが解消。
シフト間の情報共有がスムーズになり、トラブルが激減。
◆ポイント
「申し送りは誰が受けて誰が伝えるのか」役割を決めるだけで、シフト間の情報の流れが劇的に良くなる。
といった改善が生まれました。
参加者を決める

介護施設には、介護職員だけではなく、看護職員・言語聴覚士・理学療法士・作業療法士・相談員・ケアマネジャー・施設長など様々な職種が働いています。皆、専門性があります。それぞれの視点から申し送りができます。
①介護職員・看護職員・施設長での送りをしているところは多い。出来ていないところは、まず3職種参加から始める。
②①ができるようになったら、徐々に多職種を交えていく。
内容決める

申し送りで大切なところです。
内容を決めることで、そこに意識が向くので情報が増え、内容が濃くなります。
◆ 伝えるべき情報
介護職:食事・排泄・入浴・認知症・終末期が中心
施設長:事故やクレームの共有・会議で決まったことの共有・業務改善
看護職:医療的処置・体調変化
・食事:食事量の増減や嚥下・咀嚼の状態
・排泄:お通じは何日でていないか
・入浴:認知症の方で入浴拒否している人はいるか
・認知症:帰宅願望、暴力などBPSDを起こしていないか
・終末期:今の状態、本人の要望はあるか
※これは、一部です。
◆実例まとめ
「○○様いつもとお変わりありません。」
この合言葉をなんとかしないといけませんでした。
そこで、身体機能の維持に直結している3大介護(食事・排泄・入浴)と認知症、終末期の5つは申し送ることにしました。
まず、なぜこの5つなのかスタッフに腹落ちしてもらう必要があります。そこで研修をしました。
研修内容は、3大介護・認知症・終末期のそれぞれのケアで介護職が目指すゴールと、その根拠を説明しました。
ゴールとはなにか?!と気になった方は、下記の記事を参照ください。
そこからは、利用者のどこをみればいいのか明確になりました。また、情報が増えたことにより看護職員から「〇〇はどうなの?」とツッコミが入るようになりました。そのおかげで、看護側の必要な情報もわかり、申し送りの内容が充実していきました。
3大介護・認知症・終末期のそれぞれのケアのゴールとは?▼
【介護リーダー必見】リーダー職へのロードマップ|役割と成長のステップ
5つのやりかた
- 口頭
- パソコン
- ノート
- ホワイトボード
- メモ
①口頭(対面での申し送り)

メリット
- ニュアンス・緊急度・表情が伝わりやすい
- その場で質問・確認ができ、誤解が減る
- 参加者の理解度を見ながら説明できる
- 他職員がその場で補足でき、情報の精度が上がる
デメリット
- 時間と場所を確保する必要がある
- 全員が同じタイミングで揃わないと共有漏れが起きやすい
- 伝え手の力量によって情報量に差が出る
- 内容が残らない(記録は別途必要)
②パソコン(正式な記録)

メリット
- 情報が正確に残り、後で誰でも確認できる
- バイタル・食事量などの数値情報の管理に強い
- 時系列で追えるため、状態変化が掴みやすい
- 共有範囲が広く、多職種も閲覧しやすい
デメリット
- 文字だけでは緊急度や雰囲気が伝わらない
- 記録時間が必要(忙しいと入力が遅れる)
- パソコンが混んでいるとすぐに記録できない
- 誤字・入力漏れがあると伝達ミスにつながる
③ノート(共有ノート・連絡帳)

メリット
- 時系列で「何があったか」が流れで分かる
- パソコンより気軽に書ける
- 文章の端々に“現場の空気感”が残りやすい
デメリット
- 誰が読んだか分かりにくい
- 書き手のクセで読みづらいことがある
- 情報が古くなると探すのが大変
- ノートが職場に1冊しかないと混雑する
④ホワイトボード(速報用の掲示板)

メリット
- 一目で「今すぐ知るべき情報」が分かる
- シフト交代の指差し確認に使いやすい
- 多職種・新人もすぐキャッチできる
- 更新が簡単で、緊急情報に強い
デメリット
- 書けるスペースが限られる
- 誰かが消すと情報が消える(管理する人が必要)
- 詳細情報を書くのには向かない
- 字が小さい・読みづらいと共有率が下がる
⑤メモ(その場の走り書き)

メリット
- バタつく時間帯でもすぐ書ける
- 忘れやすい「その場の気づき」を残せる
- 後でノート・パソコンに転記する下書きとして便利
- 職員によっては覚書として必須
デメリット
- メモのままだと他者に伝わらない
- 失くしやすく、転記漏れが事故原因に
- 情報量が少ない、曖昧になりやすい
- 形式がバラバラで統一しづらい
申し送りの質が向上する組み合わせ
① ホワイトボード(速報・重要共有)
+
② 口頭(対面での申し送り)
+
③ パソコン(正式な記録)
この3つを組み合わせると、
“即時性・正確性・抜け漏れ防止” のすべてがカバーできます。
① ホワイトボード → 今すぐ必要な情報を全員に見える化
役割
- シフトに入った瞬間に大事な情報が一発で分かる
- 多職種、新人、登録スタッフもすぐ把握できる
書く内容(例)
- 転倒のリスクが高い方
- 医師・家族連絡あり
- 急遽の受診や体調変化
- 看取りの経過
- 本日の特記事項(誕生日、面会予定、ショート新規など)
現場での効果
口頭で聞き逃しても、ホワイトボードを見れば補えるため
「聞いてない」クレームが激減します。
② 口頭 → ニュアンス・緊急度・優先順位が伝わる
役割
- “声のトーン”“表情”で緊急度が伝わる
- その場で質問でき、誤解が少ない
- 多職種が揃うことで視点が増える
話す内容(例)
- ホワイトボードに書いた内容の詳細
- 特に見てほしい利用者の様子
- 直前の状態変化(朝、排泄、食事)
- 「今日はこの人を重点的に」という優先順位
現場での効果
パソコンやノートの文字だけでは伝わらない“現場の空気”が共有されるため、
「気づけなかった事故」が減ります。
③ パソコン → 正式記録として残す・追える
役割
- 正式な申し送り内容を残す
- バイタルや食事量、受診状況などを正確に管理
- 夜勤明けや長期休み明けでもすぐ理解できる
記録内容(例)
- 体調、ADL変化
- 医療・看護情報
- 食事・水分量
- 排泄状況
- リスク関連(転倒・感染・看取り etc.)
現場での効果
過去のデータを追えるため、
「小さな変化の見落とし」がなくなります。
この3つを組み合わせるとどうなるか?
ホワイトボード・口頭・パソコンを併用すると、
それぞれの弱点を補い合うため、申し送りの質が一気に安定します。
まとめ
申し送りは、特別なスキルよりも「仕組み」を整えることで、確実に質が上がります。
いつ・どこで・誰が・何を・どう伝えるかを決め、
口頭やパソコン、ホワイトボードなどを適切に組み合わせるだけで、情報の漏れやズレは大きく減らせます。
実際に私の施設でも、小さな改善を積み重ねるだけで
「聞いていない」「伝わっていない」がほとんどなくなり、
職員の動きやすさや利用者さんの安全につながりました。
この記事で紹介したポイントは、どれも今日から実践できます。
まずはあなたの施設に合いそうなものを1つだけ取り入れてみてください。
小さな一歩が、現場全体の変化につながります。
「利用者さんのために、本当に良い介護ができているのかな?」と感じているスタッフさんへ▼
『新しい介護 ―介護職の新しい教科書―』を読んで変わった考え方


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