はじめに:食事介助の重要性とは?

このページでは、3大介護のひとつ「食事介助」について説明します。
食事は生きていくうえでとても重要な役割を担っています。また、高齢者にとっては生活の中の「楽しみ」のひとつでもあり、年齢を重ねてもその価値は変わりません。
しかし、その食事の時間が「ただの作業」になっていないでしょうか?
介護職員は「どうすれば、その人が自分らしく食事を楽しめるか」を考える必要があります。
今回はその具体的な考え方と実践法を解説します!
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【実例あり】高齢者が食事を食べないとき──介護職が困ったときの考え方
食事介助の現場では、「今日は全然食べてくれない」「食べようとしない」といったケースにたびたび直面します。
特に新人介護職にとっては、「どうしたらいいの?」「このまま栄養が摂れなかったら…」と焦りや不安が募る場面です。
そんなときに大切なのは、「とにかく食べてもらう」ことではなく、“なぜ今、この方は食べたくないのか”を丁寧に捉える視点です。
「なぜ食べないのか?」原因を分解する視点

高齢者が食べない理由には、以下のような複数の要因が絡んでいることが多いです。
- 身体的要因:咀嚼・嚥下機能の低下、倦怠感、便秘や痛みなど
- 心理的要因:不安、気分の落ち込み、環境への不快感
- 環境的要因:音・におい・明るさなどの刺激が気になる
- 認知症の影響:食事の意味や手順がわからない、誤認
大切なのは、「この方に今、何が起きているのか?」を一緒に働くチームで共有しながら探っていくことです。
日々の小さな変化や違和感を、職種を超えて話し合える環境があるかどうかは、ケアの質に直結します。
無理に食べさせることが逆効果になる理由
介護職としては「食べてもらいたい」という想いが強くなりますが、拒否がある中で無理に口に運ぼうとすると…
- 食事そのものへの嫌悪感が強まる
- 食べること自体が「ストレスの原因」になる
- 職員への不信感が芽生える
「食べない=困るからなんとか食べさせよう」ではなく、一旦スプーンを置き、観察や声かけの工夫で空気を変えるような対応が、長い目で見て効果的です。
「本人の意思」をどう受け止めるか?
介護現場ではどうしても「○時に食事」「○分で終了」など、時間や業務優先になりがちですが、「今は食べたくない」という気持ちも、その方なりの意思表示です。
- 「この時間にお腹がすいていない」
- 「今は眠い・だるい」
- 「何か不安がある」
そうした“本人のリズム”に耳を傾けることが、尊厳ある介助の第一歩になるのではないでしょうか。
食べない=拒否ではなく「伝え方」の問題かもしれない
「食べない」という行動が、本当の拒否ではなく、伝えたいことが伝わらないだけのこともあります。
- 義歯が合っておらず、食べると痛い
- うまく飲み込めず、怖くなっている
- 介助者のペースが速く、疲れてしまう
こうした原因は、本人の“言葉”ではなく表情やしぐさから読み取るしかありません。
だからこそ、日頃の観察と信頼関係の積み重ねが重要です。
食事介助とは?|3大介護の基本

食事の目的はただ食べさせることではなく、「元気になるため」の行為です。
食事から栄養を取り入れることで健康が維持され、生活の質(QOL)も向上します。
介護職が目指すべき介助のゴールは、
「椅子に座って、口から自分で食べる」
椅子で食べる時の正しい姿勢
介助の第一歩は「椅子に座って食べてもらう」こと。
車椅子は本来「移動用」であり、背もたれの湾曲が姿勢を崩しやすく誤嚥・窒息リスクが高くなります(例外あり)。
椅子での食事:姿勢チェックリスト

✅ 足底がしっかり床についているか
✅ 前傾姿勢になっているか
✅ 背もたれにしっかり寄りかかっているか
✅ テーブルが高すぎないか(肘を置いて90度が目安)
リクライニング車椅子での食事
座位保持が難しい方はリクライニング車椅子を使うこともあります。
この場合、以下の点に注意しましょう。
✅ 足底が床またはフットレストに接していること
✅ 前傾姿勢を保てる角度(45〜80度)
車椅子での食事を希望される場合
「どうしても車椅子で食べたい」という強い希望がある場合、否定せずに理由を確認し、環境を調整しましょう。
この場合、以下の点に注意しましょう。
✅ 椅子での食事環境に近づける
✅ 前傾姿勢をサポートするクッションを背中に配置
ベッド上での食事介助の正しい手順
車椅子で食事をする方同様、理由を確認し、環境を調整しましょう。
お看取りの方や、骨折し痛みが残って動けない方が対象になります。
この場合、以下の点に沿って順番に行いましょう。
1.上方移乗し、姿勢を整える
2.足・頭の順にギャッジアップ(頭部60度が目安)
3.枕の後ろにタオルを入れ、顎と鎖骨との距離を指4本ほどにする
4.重力がかかるため、両肩・腕にクッションを詰めて安定
5.足底にクッションを置く

食事を食べない方への「姿勢・環境」からのアプローチ
「食べたくない」という訴えがあるとき、身体の状態や食事の内容ばかりに注目してしまいがちですが、姿勢や空間づくりの見直しも重要なポイントです。
本人に負担のないポジショニングが「食べる気持ち」を後押し
- 足がしっかり床についているか
- 上体が安定しているか
- 頭部の角度が嚥下しやすい位置にあるか
これらを調整するだけで、「あれ?さっきよりも口を開けてくれる」という変化が見られることもあります。
「食べやすい姿勢」と「安心できる空気感」
安心して食べるためには、身体の安定に加えて“空気感”=心理的な安心感がとても大切です。
- 周囲がガヤガヤしていないか
- 介助者が慌ただしくしていないか
- 緊張していないか
環境は、食べるかどうかを左右する要素のひとつ。できる範囲で心地よい時間を作ることを意識しましょう。
「自分で」食べてもらおう

自分で口まで運んだ食事と、誰かに食べさせられた食事では、味の感じ方や満足感が大きく異なります。結果、食事量が変わってくることもあります。そのため、自分で食べるとはすごく大切なことなのです。
自立をサポートする具体策
- 手の動きが悪い → 自助具の使用
- 咀嚼力に不安 → 義歯の調整や食形態の変更
- 嚥下困難 → とろみ調整やSTへの相談
共同動作介助という方法
スプーンを握れる方には、職員が手を添え、一緒に食べる感覚を作る「共同動作介助」も効果的です。
時間がないときの工夫
「30分の食事介助中、最初の10分は自立支援、残り20分は介助に徹する」などの時間配分を意識するだけでも、自立支援につながります。
よくある質問(FAQ)

食事中にむせる方はどうすればいい?

姿勢の再確認と、必要に応じて専門職(ST)に相談を。食形態や食事ペースの調整も有効です。

食事をまったく食べないとき、どうすればいい?

まずは体調や環境の変化を確認し、無理に促すのではなく、見守る・間を空ける・他の職種と連携することが大切です。
まとめ|「その人らしさ」を支える食事介助とは?
高齢者が食事を食べないとき、介護職として真っ先に考えたくなるのは「どうすれば食べてもらえるか」という解決策かもしれません。しかし、本当に大切なのは「なぜ食べたくないのか」という背景を丁寧に見つめる視点です。
食事介助は“作業”ではなく、その人の人生に関わる大切なケアです。
だからこそ、身体の状態や心理的な変化、姿勢や空間づくりまで、多角的にアプローチする必要があります。
そして、忘れてはいけないのが「自分で食べたい」「今は食べたくない」といった、本人の気持ちに耳を傾けること。それが信頼関係を育み、安心感や「また食べてみようかな」という前向きな気持ちにつながります。
「食べてもらう」ではなく、「自分らしく食べる」を支える。
それが、介護職としてできる、もっとも尊厳を守る食事介助のあり方なのではないでしょうか。
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