突然、認知症の方が施設に入居されて「どう対応すればいいの?」と戸惑っていませんか?
「落ち着かない様子が続いていて心配」「職員として何をすればいいかわからない」——そんな悩みを抱える方も多いはずです。
“利用者の生活の質を守る”という介護観に共感する方には、特に読んでいただきたい内容です。
有料老人ホームで9年間、数多くの認知症の方と関わってきた経験から言えるのは、
「生活環境を整えること」が、認知症ケアの第一歩だということです。
今回は、認知症ケアの基本である「7つの原則」を具体的に解説します。
入居初日からできる工夫や、職員が意識すべきポイントも紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
認知症ケアの目的とは?まずはゴールを知ろう
認知症ケアの最終的な目的は、「認知症の方の日々の生活を安定させること」です。
そのためには、次の2つの柱を意識することが大切です。
- BPSD(行動・心理症状)を減らすこと
- 生活環境を整えること
今回は、特に「生活環境を整える」ことに焦点をあて、施設入居時にすぐ実践できる認知症ケア7原則をご紹介します。
BPSDケアについて詳しく知りたい方は→「BPSDを減らす方法」をご覧ください。
認知症ケア7原則とは?施設職員が実践すべき対応方法
認知症の方は環境の変化に非常に敏感です。
脳機能の低下により、見知らぬ環境や人との接触に不安を抱きやすく、混乱やBPSDが強く出ることもあります。
しかし、以下の7原則を意識して関わることで、安心して生活していただける環境が整っていきます。
1. 環境を変えない
入院、ショートステイ、引越しにより住む環境が変わることは、認知症の方にとって大きな不安となります。 認知症状により、なぜ自宅を出ないといけないのかわからないから尚更です。自宅で過ごしていただくことが1番ですが、いろいろな理由があり、そうはいかないのが現実です。
ご自宅を離れることになった際は、下記2〜7の取り組みを施設で行いましょう。
ただ、親族の方や介護職員等は「どうすれば自宅で過ごしてもらえるのか?」を考える事は大切です。
2. 生活習慣を変えない
長年続けてきた生活リズムや習慣(例えば夕食時の晩酌や朝の新聞)をそのまま続けてもらうことが大切です。
健康の観点も大切ですが、本人らしく過ごす時間の確保が、認知症の進行予防にもつながります。
3. 人間関係を変えない
入居によって家族や地域のつながりが途絶えると、不安や孤立感が強まります。
私達も新しい組織やグループに入ると落ち着きません。挨拶をして徐々に打ち解け仲間が出来ます。ただ認知症の方には難しいです。スタッフが他入居者との仲介役をしないと孤立してしまいます。まずは挨拶から行い、同じテーブルで食事をする。レクに参加しそのままお茶タイムをする。などの工夫が必要です。
入居して間もない時は家族との面会頻度を多めに設け、徐々に施設内の人間関係を築けるようになってきたら回数を減らすようにしましょう。
4. 三大介護(食事・排泄・入浴)を“基本通り”に行う
認知症の方も、できる限り「普通の生活」を送ることが大切です。
食事・排泄・入浴という三大介護も、無理に特別対応するより、今まで通りの流れを重視しましょう。
例えば、過度な機械浴の導入がかえって不安を招くこともあります。
認知症ケアにおいては「特別扱い」ではなく、「自然な生活の継続」が安定への近道です。
🍽 三大介護の重要性|食事介助編
https://daikii.com/3大介護の重要性 食事介助編
🚽 三大介護の重要性|排泄介助編
https://daikii.com/3大介護の重要性
🛁 三大介護の重要性|入浴介助編
https://daikii.com/3大介護の重要性 入浴介助編
5. 個性的な空間づくりをサポートする
認知症の方にとって、自分らしさを感じられる空間は、安心感とアイデンティティの回復につながります。
可能であれば、以前使用していた家具や日用品、趣味のアイテムなどを持ち込んでもらいましょう。
よく聴いていた音楽を流す、慣れ親しんだ色の布団を使うなど、細かな工夫が「ここは自分の居場所だ」と感じるきっかけになります。
6. 一人ひとりの「役割」をつくる
認知症の方にも「人の役に立っている」という感覚が必要です。
その人がかつてしていた仕事や趣味、今できることをアセスメントし、小さな役割をつくっていきましょう。
役割作りの着眼点:
・かつてやってきたこと(趣味、仕事等)
・今の身体でできること
・周りから認められること
(「◯さん、手先が器用ですね。」その場合、野菜の皮むき等の役割を担ってもらう)
役割を持つことで、「自分は必要とされている」という前向きな気持ちが芽生え、BPSDの軽減にもつながります。
7. 一人ひとりの関係づくり
「3. 人間関係を変えない」と重複するところはありますが、
施設という新しい環境で、新たな人間関係を築くサポートは必須です。
ただし、認知症の方は自然に関係性を築くのが難しいことも多いため、スタッフの介入がカギになります。
ポイントとなる関係性:
- 共感してくれる人(他の認知症の方など)
- 規範となる人(見本になれる入居者)
- 頼れる人(職員や看護スタッフ)
✅ 共感してくれる人=認知症の他入居者
認知症の方は、相手の話を遮ったり否定したりすることが少なく、自然と笑顔(愛想笑い)で対応される場面も多く見られます。これは、会話の内容が正確に理解できていないことが要因とも言われていますが、それでも「否定されない安心感」を与えてくれる存在です。
たとえ名前を覚えていなくても、食事を同じテーブルでとり続けることで「顔なじみ」として安心感が生まれ、落ち着きに繋がります。
✅ 規範となる人=面倒見の良い自立された入居者
新しい環境では「どう動けばいいか分からない」ことが多いもの。そんな時、体操などの動作を見せてくれるような“お手本”となる入居者がいると、認知症の方も安心して行動を真似することができます。
関係性が築かれることで、その方が“頼れる仲間”となり、集団生活への参加意欲も高まります。
✅ 困ったときに頼れる人=介護職員やスタッフ
介護職員との信頼関係も、日々のケア(入浴・排泄・食事など)を通じて少しずつ構築されていきます。認知症の方が不安そうにしている場面や困っている時には、すかさず声をかけ、手助けをすることが重要です。
小さな積み重ねが「ここにいれば安心」という信頼に変わり、認知症の方の生活の安定に繋がっていきます。
このような関係づくりを通じて、「ここでの生活も悪くない」と感じてもらえるような環境を整えましょう。
まとめ:認知症ケアは“いつも通りの生活”を支えること
認知症ケア7原則は、特別なことではなく、「いつもの暮らし」を支える視点に立つことがポイントです。
認知症の方が安心して生活するためには、環境や習慣、人間関係などをできる限り変えないことが大切です。
これは、私たち健常者にとっても落ち着いた生活を送るために必要な要素です。
「認知症だからできない」ではなく、「どうすればその方らしい生活を続けられるか」を考えてケアをしていく——
これこそが、認知症の方への最大の支援となります。
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