寝たきり状態からの「復活」を本気で目指すということ

「このまま寝たきりが続けば、食事量が減り、老衰で亡くなるかもしれません」
そんな言葉とともに退院された100歳の女性。痛みと絶望に包まれたその姿に、私たちがまず行ったのは、“看取り”ではなく「生活のゴール」を描くことでした。
現場でこの“復活”を支えたのは、明確なゴール設定と、一歩ずつのケアプロセスだった。
この記事では、実際の事例をもとに「寝たきりから復活」を可能にした高齢者ケアのプロセスを、介護職・看護職・ご家族との連携を軸に紹介する。
1️⃣ 最初にすべきは「ゴールの共有」──復活への第一歩
まず行ったのは、ケアマネジャー・看護師・ご家族に、介護職としてのゴール設定を明確に共有することだった。
- 食事:椅子に座って食べる
- 排泄:トイレで行う
- 入浴:個浴でリフレッシュできる状態にする
「元の生活に近づけること」を共通認識として持つことで、全員が同じ方向を向いて支援を始められた。
2️⃣ 栄養は“生きる力”──ベッド上での食事姿勢の工夫
寝たきり状態から始めるには、食べること=生きるエネルギーの補給と捉え、まずはベッド上での食事介助を丁寧に行った。
ベッド上での正しい食事姿勢
- 上方移乗し、姿勢を整える
- 足・頭の順でギャッジアップ(頭部60度が目安)
- 顎と鎖骨の距離は指4本分
- 両肩と腕にクッションを置いて安定を図る
- 足底にもクッションを置く
血圧の急変を避けるため、食事前にはフルバイタルを看護師と連携して確認。
まずは1~2口の高カロリーゼリーや飲み物を摂るところからスタートした。
⏬️食事の重要性について⏬️
🍽 三大介護の重要性| 食事介助編
3️⃣ 少しずつ会話が──リクライニング車いすでの食事へ
食事量が少しずつ増え、本人の表情も柔らかくなっていった。
ベッドからの移乗ができるようになり、リクライニング車いすを活用して居室内での食事が始まった。
居室で食べる理由は急変時すぐベッドに横になる等、対応がしやすいため。
移乗を毎日のルーティンに組み込むことで、自然に体力を戻す支援となる。
4️⃣ 排泄ケアの転機──“トイレで排泄する”ことの意味
食事姿勢の安定により、座位保持ができるようになった段階で、トイレでの排泄支援がスタート。
座位を取ることによって体幹が鍛えられる。
二人介助で便座に座ってもらい、重力を活用して排便がしやすい体勢を作った。
この時点では毎日排便があるわけではないが、摘便は不要に。
「トイレで排泄したい」という本人の意欲を支えることが、さらなるリハビリの原動力になっていった。
「排泄はトイレで」という目標はここで達成‼️
5️⃣ 機械浴から始まった“お風呂のある暮らし”
医師・看護師の許可を得て、機械浴による入浴支援を開始。
体調管理を最優先しながら、週1回の入浴でリフレッシュ効果を実感。
入浴後に排便があることも増え、生活リズムが整っていった。
夜間の睡眠時間も伸びた。
6️⃣ ダイニングへ──他者との関わりが意欲を引き出す
医師からの許可が下りたことで、ダイニングでの食事を再開。
まだこのときはリクライニング車いす。疲労時や急変時、チルト(車椅子の座面と背もたれを一体的に後方へ傾けること)するため。
他の利用者との挨拶や会話が食欲を刺激し、自分でスプーンを持って食べようとする姿勢が見られた。
- 食事時間:約30〜40分
- 最初の10分は自分でスプーンを持って食べる
- 残りはスタッフがサポート
他者への気疲れもあり「夜はぐっすり眠れる日が増えた」という変化も現れた。
人間らしい生活になってきた。
7️⃣ 椅子での食事に挑戦──自立を目指しながらスタッフの介助も継続
急変の可能性が低くなったタイミングで医師の指示を得て、椅子に座っての食事を行う。
急変時は居室のベッドへ急ぎで戻ることが条件となる。
「椅子での食事」というゴールを達成‼️
8️⃣ 個浴での入浴再開──浴槽の跨ぎを工夫し入浴環境を整備
入浴は個浴に切り替わり、浴槽の跨ぎ動作が課題となる。そこは、浴室内の環境を整えクリア!
ご家族と共有していた入浴のゴールも無事達成し、生活の質向上。
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🛁 三大介護の重要性| 入浴介助編
寝たきりから復活した高齢者のケアプロセス──ゴールが人を動かす力
このケースがうまくいったのは、本人の意欲ももちろんあるが、
なによりも「明確なゴールを設定し、関係職種で共有しながらプロセスを進めた」ことが大きい。
- ゴールを共有すること
- 小さな変化を見逃さず記録し、周囲と共有すること
- 本人の「やってみよう」を支える姿勢を持ち続けること
寝たきりからの復活は、奇跡ではない。
高齢者のケアプロセスにおける“当たり前の努力”の積み重ねが、結果を生み出すのだ。
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