「良い介護を提供したい」「ご入居者の想いに応えたい」──。
そんな熱意を持つスタッフが多くいても、チーム全体に介護観がなかなか浸透しない。そうした悩みを抱える管理者やリーダーは少なくありません。
本記事は、「理念はあるが、現場で形にならない」「職員との価値観のズレに悩んでいる」──そんな悩みを持つ施設長や中間管理職の方に向けて、スタッフが“自ら考え行動できる”チームをつくるための具体的な仕組みをご紹介します。
1.介護施設の人間関係構築術|理念浸透のための3つの基本行動
介護施設における組織づくりやスタッフマネジメントにおいて、「人間関係の質」はすべての土台です。どれだけ理念や介護知識を伝えても、人間関係ができていなければ、スタッフの心には届きません。
管理者として現場をまとめたい、理念を浸透させたいと考えるなら、まずは「聞く」「伝える」「仕事をやり遂げる」という3つの基本行動を徹底しましょう。
● 「聞く」ことで信頼が生まれる
現場スタッフの声に“耳を傾ける姿勢”が、信頼の第一歩です。以下の5つの具体行動を意識するだけで、対話の質は大きく変わります。
行動 | ポイント |
---|---|
表情 | 笑顔を“先出し”し、安心感を伝える |
うなずき | 強・中・弱のうち、「弱」で柔らかく共感 |
姿勢 | 手を止め、前傾姿勢で相手におへそを向ける |
感嘆&称賛 | 驚き+褒め言葉でポジティブな空気をつくる |
質問 | 「なぜ?」「他には?」「それで?」で深掘り |
聞くスキルが高まると、スタッフは安心して悩みやアイデアを話せるようになります。これが介護観の“共有”につながるのです。
● 「伝える」は論理+共感がカギ
管理者の「伝え方」次第で、スタッフの理解度もモチベーションも変わります。話すときは、以下の構造を意識しましょう。
結論 → 根拠(3つ)→ 具体例(事実)→ 再度結論
たとえば
「〇〇さんの入浴介助を見直したいんです。(結論)
なぜなら、(1)本人が拒否感を示している、(2)身体機能が低下してきている、(3)スタッフの負担も大きいからです(根拠)。
先日も、〇〇さんが『今日は嫌』と声を荒げた場面がありました(事実)。
だからこそ、ケアの在り方を一緒に考えてほしいんです(再結論)。」
このように、論理性と共感の両方を意識することで、スタッフの納得感が高まります。
● 「仕事をやり遂げる」が信頼を生む
現場で信頼を築くには、「やると言ったことは、きちんとやる」ことが何より大切です。特に管理職やリーダーは、見られている立場。日々の小さな“やり遂げる”の積み重ねが、周囲からの信頼につながります。
例)管理者としてのやり遂げポイント
項目 | 取り組み | 補足 |
---|---|---|
❶ 介護保険の勉強 | 市区町村の勉強会に参加 | ▶法令を理解し、制度と現場の橋渡し役になる |
❷ 介護観を学ぶ | 介護経営者との交流 | ▶常にアップデートし、理念を言語化する力を養う |
❸ 職場環境の整備 | ソフト・ハード両面で改善 | ▶安心して働ける仕組みや雰囲気を整える |
“時間と心の余裕”が人間関係のベース
スタッフの表情が曇っていたり、自分がついイライラしてしまう時、背景には「余裕のなさ」が潜んでいます。
- タスクが多すぎる
- 頼る人がいない
- 感情の整理ができない
そういった状況では、相手の話を“ちゃんと聞く”ことも、“丁寧に伝える”ことも難しくなります。
<具体的な対策例>
休憩の質を高める(5分でも◎)
業務を「見える化」して分担
感情日記やモーニングルーティンで自己整理
2.介護観をチームに伝える5つの会話の場づくり
介護施設において「介護観をどう現場に浸透させるか」は、多くの管理者にとっての悩みの種です。特に、スタッフのモチベーションが低下していたり、施設方針がうまく伝わっていないと感じる場合、その原因は“会話の質と量”にあるかもしれません。
理念や方針をただ掲げるだけでなく、日々の会話の中で意識的に「伝え、広げる」ことで、現場全体に介護観が根付き、強いチームづくりへとつながります。
ここでは、介護リーダー・施設管理者として意識すべき5つの会話の場をご紹介します。
● フロア(現場):事実を観察し、対話のヒントを探す場
日々の現場は、最もリアルに介護観があらわれる場所です。入居者の状態やスタッフの動きに「違和感」を覚えた時こそ、対話のチャンス。
「なぜそうしたのか?」「この対応は自分の介護観と合っているか?」といった内省を促す声かけが、理念を共有するきっかけになります。
● 申し送り:情報共有と方針伝達のゴールデンタイム
【目的】
情報収集・共有・検討を通じて、ケアの質を整え、施設方針と現場をつなぐ場。
【時間】
10~15分で簡潔に。集中できる時間設定がポイント。
【マナー】
「声・言葉・視線・間合い」のマナーを守ることで、信頼関係を保ちます。
【タイミング】
理想的な流れ
夜勤明け → 早番 → 日勤リーダー
↓
日勤リーダー → 出勤スタッフ
↓
日勤リーダー → 夜勤入り
★情報共有の“ハブ”として日勤リーダーの整理力が重要!
【参加者】
介護・看護・リハビリなど多職種で連携し、事故防止・状態変化・終末期対応などの共有を行います。
【伝える内容】
- 管理者:クレーム対応・業務改善・経営側の意図
- 介護職:生活ケア・認知症ケア・個別配慮
- 看護職:医療的処置・体調変化
ポイントは、「目標→原因→対策」という整理を意識し、次のアクションに繋がる「送り」にすることです。
● 会議(ミーティング):チームで理念を言語化・共有する場
【目的】
介護リーダーとしての“思い”や“方向性”を言語化し、共に考える時間に。
【種類と活用法】
- 全体会議:施設方針や売上目標、業務改善提案の共有
- リーダー会議:現場で見えた課題の深掘りと解決策の議論
- チーム会議:個別ケア・認知症ケアの事例検討・価値観のすり合わせ
「理念を押し付ける」のではなく、「一緒に形にする」姿勢が信頼と共感を生みます。
● 研修:学びをチームで共有し、実践につなげる
【目的】
単なる知識習得ではなく、「行動が変わる学び」を目指すことが重要です。
【仕組み】
「研修 → 実践 → 振り返り → 再実践」というサイクルをチームで取り組みます。
スタッフ同士で学びをシェアしたり、ロールプレイを行うことで、実際のケアに反映しやすくなります。
● 面談:1対1の対話で介護観をすり合わせる
【目的】
スタッフの介護観を引き出し、管理者の介護観と重ね合わせながら、共通の目標に導く場。
【良い面談とは】
- 職員が「話したいことを話せた」「聞いてもらえた」と感じる面談
- 一方的ではなく、双方向のコミュニケーション
【面談の流れ】
- 相手の介護観を聞く:「どんな介護がしたい?」「どんな介護は避けたい?」
- 自分の介護観を伝える:「こういうホームをつくりたい」
- 共通の目標設定:スタッフの思いに沿ったチャレンジを一緒に計画
事前に介護観を聞いておくことで、今後の指導や評価が“個別性”を持ち、納得感あるアプローチが可能になります。
【実施時期】
上期・下期に1回ずつの定期面談をベースに、必要に応じて随時実施。
理念を「話す場」があるかどうかが、チーム力を分ける
介護施設における組織マネジメントの本質は、「現場に思いが伝わっているか」に尽きます。
介護観を押し付けるのではなく、「伝え」「共感し合い」「育む」こと。
そのために、日々の会話の場をどれだけ大切にできているかが、現場力・人材育成・理念浸透すべてのカギになります。
「スタッフ育成の仕組みをつくりたい」「介護施設マネジメントのコツを知りたい」
そんなあなたが目指すのは、“理念が現場に根付くチームづくり”ではないでしょうか。
3. 介護観が合わない職員への対応法と人財の見極め方
介護施設のマネジメントにおいて、「人財の選び方」は組織全体の雰囲気や方向性を決める極めて重要なテーマです。
特に、介護観が合わないスタッフへの対応は、現場育ちの管理者にとって避けて通れない課題ではないでしょうか。
スタッフ育成と介護観のすり合わせをどう進めるか、具体的に解説します。
1.スタッフの“パワーバランス”を見極める
まず確認したいのは、現場で影響力を持っているスタッフの“介護観”が、施設の方針と一致しているかどうかです。
✅チェックポイント:
- リーダー職やベテランスタッフの介護観が、施設の理念とズレていないか?
- 職位の上下にかかわらず、現場を引っ張っている“実質リーダー”は誰か?
- その人の言動が、周囲に良い影響を与えているか?
もし介護観がズレているスタッフが影響力のあるポジションにいる場合、その人の価値観が施設全体に伝染してしまいます。
「一生懸命やってくれてるし…リーダーを降りてもらうのは気が引ける」
そんな風に遠慮してしまうと、いつまでも施設改革が進まず、現場の停滞を招いてしまいます。
▶ リーダー職を見直し、本人の強みが活きる“別の役割”へ
リーダーを外れることは“降格”ではありません。大切なのは、本人が活躍できる場を見つけてあげることです。
具体例:
- 整理整頓が得意 → 環境委員会や物品管理担当へ
- 教えるのが上手 → 新人教育係
- 記録が丁寧 → 業務マニュアルの整備係
例)ベテランスタッフAさん(介護歴15年)は、介護観は古いやり方に偏っていましたが、整理整頓や清掃の徹底力がありました。そこで「衛生管理係」として任命したところ、現場の衛生水準が格段に向上。本人のやりがいも高まり、良い影響を与えられるようになりました。
「人はポジションで活かす」——そう捉えなおすことで、本人のモチベーションも保ちつつ、施設の方針とのズレを修正できます。
▶ 本人に不満がある場合は「異動」も視野に
介護観のズレが大きく、影響力のある役割から外れても納得できないようであれば、「異動」という選択肢も検討します。
組織全体の健全性とご利用者の生活の質を守るためには、遠慮や感情だけで判断しない“勇気ある決断”が必要です。
2.「人間関係の構築」「会話の場づくり」を通して、価値観のズレを見える化する
介護観の違いは、日常業務の中でははっきり見えづらいもの。だからこそ、以下の2つを並行して進めることで、価値観のズレを早期に発見し、対応のタイミングを逃さないようにします。
【1】人間関係の構築
日頃からスタッフとの信頼関係を築くことで、本音が見えてくるようになります。
【2】会話する場づくり
- 1on1の面談
- 委員会活動での対話
- カンファレンスや申し送り時の意見共有
冒頭からご説明した【1人間関係の構築】と【2会話する場づくり】を仕組みとして組み込むことで、考え方や価値観の違いを浮かび上がらせることが可能です。
そのうえで、必要に応じて再配置・役割調整・異動など、「人財の選定」を都度行っていく柔軟さが、組織マネジメントの要になります。
介護観のズレを“対立”で終わらせず、“仕組みづくり”のきっかけに
「介護観が合わない人=排除」ではなく、“人を活かす視点”で配置を見直し、組織にフィットさせていく。それが、理念浸透型マネジメントの第一歩です。
介護施設の運営では、次の3つを意識することで人財が活きる環境が整います。
- 影響力のあるスタッフの価値観を見極め、必要な配置転換を行う
- スタッフの強みを再発見し、別の役割で活躍してもらう
- 会話と関係性のなかで、ズレを早期に察知する仕組みをつくる
こうした“仕組み化された人財選定”が、介護施設の理念を現場に根づかせる最大のカギとなるのです。
まとめ
理念を現場に浸透させるためには、「熱意」だけでなく「仕組み」が必要です。
本記事で紹介したように、人間関係・会話・人財選定という3つの土台を整えることで、チームは着実に変化します。
次回のPart③では、「介護観が合うスタッフをどうリーダーに育てるか」「プロジェクト(委員会)の重要性」について詳しくご紹介します。
理念を体現する“現場リーダー”の育成ノウハウを知りたい方はぜひご覧ください。これらのポイントをどう“運用・実践”していくか、実例を交えて深掘りしていきます。
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