介護の現場では、「スタッフの介護観がバラバラで連携がうまくいかない」「理念が現場で形にならない」といった悩みが少なくありません。
どれほど素晴らしい介護観や理念を掲げても、現場でそれを体現する人材が育っていなければ、組織は変わりません。
だからこそ必要なのは、共通の介護観を持つ“リーダー”を育て、現場に浸透させていく“仕組みづくり”です。
本記事【Part③】では、「介護観が合うスタッフをどう見つけ、どう育てるか?」「チームでより良い介護を実現するには?」といった実践的なマネジメントのヒントを、具体例とともに解説します。
スタッフ育成や組織づくりに悩む管理職の方に向けて、人が育ち、チームが変わる介護施設づくりのポイントをお伝えします。
4.介護観が合うスタッフをリーダーにする|“現場が変わる”実践的マネジメントとは?
介護施設でチームを育て、質の高いケアを実現するには「介護観が合うスタッフをリーダーにする」ことがカギです。
本記事では、現場主導で介護観を浸透させていくための具体的なリーダー選定・育成法、そして管理者としての関わり方を、実践的に解説します。
1.「介護観が合うスタッフ」をリーダーに選ぶ
管理者が常に現場にいなくても、介護観がブレずに浸透する環境をつくるには、「介護観が合うリーダー」の存在が不可欠です。
◎リーダー選定の5つの条件
条件 | 内容 |
---|---|
①介護観が合っている | 利用者本位のケアを実践している |
②ご入居者を思いやれる | 発言と行動が一致する“生粋の人” |
③スタッフを思いやれる | 寄り添いと育成のバランスを持つ |
④「やりたい」という意志 | 本人の内発的動機がある |
⑤自立型人材 | 問題解決志向・原因自分論がある |
特に④⑤は後天的に身につく要素であり、育成可能です。
また、リーダーには「仕組みを作れる」視点が求められます。
◎若手×ベテランのバランスが鍵
メリット | 内容 |
---|---|
✅ 若手の意欲 × ベテランの知恵 | 新しい風と安定感の融合 |
✅ 定着率の向上 | 若手は辞めやすく、ベテランは残りやすい |
2.リーダー育成|“やりたい介護”を実現できるチームをつくる
リーダーの最大の目標は「自分のやりたい介護・やりたくない介護」を実現できるチームをつくることです。
リーダーの取り組み
1.リーダーの考え(やりたい介護、やりたくない介護)を浸透させる。
2.チームメンバーを1人にしない。成長を促す。
3.業務改善
1.リーダーの考えをチームに浸透させる具体策
- フロア内での共有
- 申し送りでの伝達
- ミーティング・研修・面談を活用
⚠️注意点:スタッフ主体ではなくご入居者主体で!
❌NG例:スタッフ主体
「立位が不安定になってきたから、ベッド上でのパッド交換に変更」
✅OK例:ご入居者主体
「立位が不安定。でも本人はトイレに行きたい。どうすれば安全に行けるか?」
→このマインドをチームミーティングや日々の声がけで根づかせましょう。
◎管理者の具体的アクション
1.チームミーティングに参加し、議論を整理する
- 本人の視点(=何を望んでいるか)と
- スタッフの視点(=何が課題か)で議論ができているか
本人視点とは:「本人は何がしたいのか?」
例)歌が好きだからカラオケに行きたい
スタッフ視点とは:「介護職目線の問題点」
例)下肢筋力が低下してきた
2.リーダーにミーティングのフィードバックをする
2.チームメンバーを1人にしない。成長を促す!
チームミーティングを毎月開催
ストレスや悩みを個人で解決させない。チームで解決する。集まれないスタッフには個別でのフォローを行いましょう。
メンバーを最後まで見る
メンバーの仕事が進んでいるのか?やり切るまでトラッキング(後追い)をする!
やり切るまで見届ける事でメンバーは責任感が芽生えます。
また、誰にも相談できず困っている人がいるかもしれません。(期限を)忘れやすいスタッフがいるかもしれません。そのスタッフの成長の為に最後まで寄り添いましょう。
指摘をする
成長に欠かせないのか指摘です。正しいことを伝えることは重要です。指摘は相手に伝わるか分からない為、めんどくさく嫌な作業です。が、指摘ができないとリーダーの目標である「自分のやりたい介護・やりたくない介護」を実現できるチームをつくることは実現しません。
3.業務改善もリーダーの仕事
リーダーは仕組みの「破壊者」ではなく、「創造者」であるべきです。
◎仕組み改善の視点
- 新しい仕組みをゼロからつくる(0→1)
- 既存の仕組みをより良くする(1→2)
- 不要な仕組みをなくす(1→0)
5.プロジェクト型チームづくりで現場力アップ|専門性と主体性を育てる仕組み
介護現場でスタッフのモチベーションや組織力に課題を感じていませんか?
「スタッフが受け身」「施設の方針が現場に浸透しない」——
そんな悩みを持つ管理者の方にこそ知っていただきたいのが、“PJ(プロジェクト)を通じた専門性部隊づくり”という取り組みです。
なぜ今、プロジェクト型育成なのか?
多くの介護施設では、教育が個人任せになりがちです。
しかし、現場スタッフが“自分ごと”として学び・動ける環境をつくるには、チーム単位での育成が有効です。
そこで注目されているのが、PJ(プロジェクト)活動。
目的を持った少人数のチームで、課題解決に取り組みながら成長できる仕組みです。
◆PJの実例:5つの専門性プロジェクト
それぞれのPJは、現場課題と直結したテーマを持ち、スタッフの得意分野や興味に応じてアサインされます。
1. 人財育成PJ
- ねらい:
- 新人教育の標準化を目指す
- 施設の育成マニュアルの構築
- 具体例:
- プリセプター制度の導入
※今後、人財育成の記事を投稿します。
- プリセプター制度の導入
2. 介護技術PJ
- ねらい:
- 利用者の残存能力を最大限に引き出す介護技術力
- 具体例:
- 勉強会を3ヶ月ごとに実施
3. 認知症PJ
- ねらい:
- 日々の生活が安定(居心地ができる)する
- 具体例:
- BPSD(行動・心理症状)7項目
(【初心者向け】感情が読めなくてもできる!認知症ケア7つの実践ポイント)参照 - 認知症ケア7原則
(認知症の方が私の施設に!?何をしたらよいの?)参照
- BPSD(行動・心理症状)7項目
4. 事故PJ【リスクを予知し、防ぐ力を】
- ねらい:
- QOLの維持、向上
- 具体例:
- 事故件数の削減
- 3ステップの精度向上と危険予知スキルの育成
(【介護現場】事故が繰り返し起きる理由と減らすための3ステップ)参照
5. 居室担当
◆PJを通じた育成の進め方(ステップ設計)
- メンバーのアサイン
- 本人の「やりたい」を重視
- 迷う人には、強みを見つけて適材適所へ配置
- 目的を自分たちで考える
- 「なぜこのPJが必要か」を自分たちで言語化することで、当事者意識が育つ
- 目標設定 → 実行計画立案
- 年間目標から逆算して、実践的な取り組み内容を設計
- 問題が起きた時の対処法
- 「個人」と「仕組み」の両面から原因を分析
- 解決はPJに委ねて組織で対応
◆成果が出るまでに3〜5年かかる理由
「すぐに効果が出ないのでは?」という不安もあるかもしれません。
ですが、組織文化やスタッフの意識を変えるには年単位の積み重ねが必要です。
小さな改善を繰り返すことで、
・理念が現場に根づく
・スタッフのモチベーションが自発的に高まる
・中堅が育ち、リーダーが増える
といった変化が起きてきます。
まとめ|介護観が根づく現場づくりは、“仕組み”がカギ
理念や介護観をただ掲げるだけでは、現場は変わりません。
現場で実践できる「仕組み」と「関係性」があってこそ、介護観はスタッフの中に根づいていきます。
今回ご紹介したように、
- 介護観が合うスタッフをリーダーに据えること
- “やりたい・やりたくない介護”を語り合う場をつくること
- プロジェクト型で専門性あるチームを育てること
これらを実践することで、スタッフ一人ひとりの意欲や当事者意識が高まり、「自走するチーム」へと変化していきます。
「いい介護をしたい」「人が育つ施設をつくりたい」
そう願う方こそ、まずは一歩踏み出して、できることから始めてみませんか?
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