ベッド上での食事のデメリットとは?ADLが下がる前に考えたい“椅子での支援”

介護観

「ベッドの方が本人も楽だから」「移乗が大変だから、仕方ないよね」
そんな言葉のもと、いつの間にか“ベッドでの食事”が当たり前になっている利用者さんはいませんか?

でも、ある日ふと気づいたんです。
以前より食事の量が減っている、声をかけても反応が薄い、座る力も弱くなってきている…。
それって、本当に“本人のため”になっているんだろうか?
もしかしたら「食事の姿勢」が、ADLや生活の質に影響しているのでは?

この記事では、
ベッド上での食事が当たり前になっていた方に対し、
「椅子で食べる」という生活本来のスタイルを支援した実践例と、
そこから見えてきたADLへの影響、尊厳との関係、支援の工夫についてお伝えします。

「なんとなくそうしている」日常を見直し、
“元気を引き出す食事”とは何か?を一緒に考えてみませんか。

ベッド上での食事のデメリットとは?

尊厳の喪失につながる可能性

尊厳が守られにくい環境ベッドでの食事は、私たちが普段食卓で食べる文化とは異なります。姿勢の制限やパジャマ姿のまま食事をすることは、“生活する人”としての尊厳を損なう可能性があります。
「自分は何もできなくなってしまった。」と思い込み、生きていくうえでの意欲の低下に繋がります。
※尊厳を保持する介護とは?「いまいちわからないな。」という方は🔗 こちらを参照ください。

食事環境の変化による摂取量の減少

仰臥位や半座位では嚥下しづらく、食欲がわかないことも。結果として食事量が減り、栄養状態が悪化。体力も気力も奪われる悪循環に陥りやすいのです。

「元気の低下」からADLの低下へ

食事量が減ると、体力・筋力の維持が難しくなり、次第に「立つ・座る」といった動作にも影響が出てきます。つまり、ベッド上での食事がADL低下を引き起こす負のサイクルの一因になり得るのです。

なぜ“ベッドでの食事”が当たり前になってしまうのか?

本人の「希望」の裏にある“遠慮”や“不安”

「ここで食べるほうが楽なのよ」と笑顔で話す利用者の言葉に、私たちは少しホッとするかもしれません。しかし、その「楽」は本当の希望ではないかもしれません。スタッフに迷惑をかけたくない、転倒が怖い。そうした“遠慮”や“不安”がベッドでの食事を選ばせているケースもあります。

スタッフの“効率”と“安全”を優先しがちな現実

忙しい現場では「移乗の手間を省きたい」「転倒させたくない」という理由から、ベッド上での食事を選びがちです。安全配慮という名目で、本来可能だったはずの選択肢を奪ってしまうことがあります。

「一度ベッドに慣れると戻せない」という現場の思い込み

「この人はもう椅子には戻れないよね」という声を聞いたことはありませんか? ベッド上での食事が“当たり前”になってしまうと、元の環境に戻すきっかけを失いやすいのです。

椅子で食べる支援の価値とは?

食事環境が変わると、意欲も変わる

椅子に座り、テーブルで食事をするというだけで、「食事の時間らしさ」が戻ってきます。姿勢が整い、視線が上がることで、周囲とのコミュニケーションも増え、自然と表情が明るくなることもあります。

自信と主体性の回復

椅子に座る・自分でスプーンを持つ。こうした行動ひとつひとつが、本人の「できること」の再確認になります。たった一食の変化が、本人の自信と誇りを支えることもあるのです。

椅子で食事をするための支援の手順

1. ADL評価と体調確認を行う

まずは看護師やリハビリ職と連携し、座位保持が可能か、移乗にリスクがないかを確認します。
座位保持が困難な方は、リクライニング車椅子を検討。移乗することによって血圧の変動がある方は医療職の意見も聞くようにします。
お看取り末期の方や骨折して動けない方は、無理な離床は控えましょう。本人にとって辛いだけなので。

2. 本人の思いを丁寧に聞く

「ベッドより椅子で食べてみたいと思うことはありますか?」といった問いかけを通じて、本人の思いを引き出します。「怖い」「疲れる」といった不安を丁寧に受け止めることが大切です。

3. 小さなステップで慣らしていく

段階的に取り組んで行きましょう。
ベッド上で食事をしていた方は、移乗することや座位を取ることは一苦労です。

・移乗に自信がない方は、いきなり椅子で食べるのではなく車椅子で食事をしてみましょう。移乗回数を最低限にします。少しずつ足に力を入れられるようになると、椅子にチャレンジしてみましょう。
※椅子や車椅子での食事姿勢に関しては🍚 【介護現場で実践】3大介護「食事介助」の基本と正しい姿勢・環境づくりとは?の記事を参照ください。

・座位に自信がない方は、リクライニング車いすを使用し離床時間を増やしていきましょう。まずは昼食の時間から開始する等です。

段階を踏むことで、本人もスタッフも無理なく慣れていけます。

4. 支援の目的をチームで共有する

「椅子で食べること」が目的ではなく、「本人の尊厳を支えるため」「元気になってもらう」といった“意義”をチーム内で共有し、ブレない支援を続けることが重要です。

支援を通して見えたもの

実際に、ベッドから椅子への移行を支援した利用者の中には、「自分でもまだできるんだ」「やっぱり椅子の方が落ち着く」と話してくださる方がいました。

スタッフも最初は「大変そう」と感じていましたが、続けていくうちに「食べる姿がしっかりしてきた」「笑顔が増えた」と実感を持つように。

支援のきっかけは小さな違和感でも、そこに向き合うことで、“その人らしい暮らし”が一歩前に進むのだと、改めて実感しました。

その人らしさを支えるために、いまできること

私たち介護職にできるのは、「この方にとって何が最善か?」を日々問い続けることです。

ベッドでの食事が常態化している現場に、「それでいいのかな?」と問いを投げかけることは、決して批判ではありません。“本人の力”を信じる支援こそが、その人らしさを支える最初の一歩になるのだと思います。


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